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Yさんの旅行記 〜旅は気まぐれ 世は情け〜


 【バルト三国からフィンランドへ】
    
 
 知人のYさんは、今年の6月に北欧のバルト三国とフィンランドを
旅してこられました。
 その中から、リトアニア、エストニア、フィンランドの紀行文を寄稿して
いただきましたので紹介します。

カナウスの希望の家

カナウスは、リトアニアの第二の都市である。
カウナス訪問の第一の目的は、スギハラ・ハウス。
第二次世界大戦中、亡命を求めるユダヤ人たちに
手書きのビザを発行し続けたあの杉原千畝氏が駐在した領事館である。
現在は記念館となっている。
閑静な住宅街にひっそり佇む小さな家。
門柱に現地語と英語、それに日本語で「希望の家」と書かれている。
玄関には「日本研究センター」および「大量虐殺研究センター」との表札が・・・。

杉原氏は、日本政府にユダヤ人に対するビザ発行許可願いを却下された後、
1,600通もの手書きのビザを発行し続けた。
それによって命を救われたユダヤ人は、約6,000人にのぼるという。

なぜ彼はそこまでしたのか。
そこまでできたのか。
絶望に打ちひしがれたユダヤ人たちの姿がビデオに大写しになる。
領事館を囲む鉄柵を握り締めた人々の目。
彼らの姿を見たとき、杉原氏の魂は激しく突き動かされたに違いない。
その衝動のままに、彼はひたすらペンを走らせたのだ。
何かにとりつかれたように。
それを「神の手」と呼ぶなら、呼んでもいい。
念願のビザを受け取ったユダヤ人たちは、
思わず「ニホン、バンザイ!」と叫んだという。

現在、杉原記念館は資金不足のため、存続が危ぶまれているそうだ。
何とか手立てはないものか。
彼らの行為が、静かに放つ希望の光を絶やすことがあってはならないと思う。
杉原総領事、あなたにお会いして、
私は日本人であることを改めて誇りに思います。

中世の異次元空間 タリン(エストニア)

エストニアのタリンは、
町を囲む城壁がほぼ完全な形で残っているので、
その中にある旧市街地は、不自然なまでに中世の空間である。
本当に大きな歴史博物館の中を歩いているようだ。

通りのあちこちに、
ルーベンスの絵画から抜け出てきたような男女が立っている。
ロミオとジュリエット風であり、鍛冶屋の師弟風であり、
農家の娘風であり、とシェークスピアの劇でも見ているよう。
そのほとんどが学生のバイトと思われる。すごく格好いい!

このへんの目立つ建物には、
「のっぽのヘルマン」とか、「太っちょマルガリータ」とか、
それぞれ特徴のあるニックネームがついていて、何となくユーモラス。
レストランのメニューも、14世紀ハンザ同盟時代のレシピのままという。
ビールや料理なんかを売り物にしていて楽しい。

市内電車が走っており、市電に乗って
ロシアのピョートル大帝が愛妃エカテリーナのために造らせたという
「カドリオルク公園」へ行くことに。
運転手のオジサン、コワそうな顔のわりには親切で、
降りる駅や道順など、身振り手振りで丁寧に教えてくれた。

言葉は通じないが、何を言っているのかとてもよくわかる。
やはり、ハート・トゥ・ハート、人間、こころよね!
手を振って笑顔でお礼。
笑顔は世界の共通語。

フィンランドはお船に乗って

午前10:20エストニアのタリン港発。
ブルーラインのアシカマークも愛らしい、シリヤラインという高速艇に乗る。
船内は広く明るくて、乗務員もよく訓練されている。
とても快適。
さすがお船の国ね、と感心しながら、
島影のまったく見えないねずみ色のバルト海を一路北上する。

スナックバーでシーフード満載のサンドイッチとワインなど買い求め、
あれこれお喋りしていると、もうヘルシンキに到着。
時間は正午12:00に近い。

港でタクシーを待つ間、配車係のオニイサンとしばしお喋り。
「フィンランドは世界一物価の高い国だよ、福祉国家だからね」
ガイドブックによると、この国ではほとんどの商品に
22%のVAT(付加価値税、日本の消費税みたいなもの)が
課せられているという。
これが手厚い福祉政策の財源となっている。

ホテルは街の中心にあり、駅にも近くて大変便利なロケーション。
ガラス張りの近代的な外観だが、
廊下の壁、部屋の家具や床もすべて白木。
グリーンの濃淡のチェックのベッドカバーに真っ白なシーツ。
ああ北欧に来たんだな、と実感。

ここは北欧インダストリアル・デザインの本場とあって、
階段の踊り場なんかにも、
現代美術のオブジェと見まちがうような
真っ赤な椅子がでんと置かれており、
それが何とも素敵なのだ。さすが!

さて、では市内見物といきますか。
まずはトラムに乗って市内を一回り。
ちょうどカーニバルとかち合い、繁華街は身動きできないほどの人の波。
ヘルシンキは、もう白夜の季節に入っているので、
夜11時くらいでも十分明るい。
今の日本で言うと、 夕方5時か6時くらいの感じ。
空虚で薄汚れた印象。

その雰囲気に拍車をかけているのが建設ラッシュ。
一歩裏に入れば風情のある石畳が続く。
小さな公園ではライラックの花が満開。
控えめでおだやかな薄紫だ。

目指すマーケット広場は、ヘルシンキ港からすぐ近くにある。
名前のとおり、多くの露店が並ぶ。
陽気にお喋りを 交わしながら、魚をさばいているおじさんたち。
色とりどりの花、野菜、果物。

カモメが低く飛び交い、
屋台で昼食をとっている私たちのテーブルにもやってくる。
真っ白な船が数隻停泊し、潮風が吹きぬける。
んー、いい気持ち。
そう、フィンランドは海の国でもあるのよね!
ここもやはり、フィンランドの人たちが、素顔のままでいられるところ、
いいなあ!

マーケット広場横に、ちょっと洒落たレストハウスがある。
あら素敵ね、と近寄ってみれば、正面に衛兵が一人立っていた。
もしかして、これが大統領官邸?
まー、なんてあっけらかんと無防備な!
にわかには信じ難く、思わず地図で再確認。
すぐ隣には3階建ての重厚なレンガ造りの建物が。市庁舎である。
こっちの方がよっぽど大統領官邸風だよ!
このへんにも、権威を嫌うフィンランド人の国民性がよく現れている
のではないか。
この国がまたぐっと近づいた。

次に目指すのは、デザイン博物館。
フィンランドは家具、食器など、
多くのインダストリアル・デザインで有名だ。
いわゆる北欧デザイン。
澄んだ大らかな目で捉え、
シンプルな線で表現された自然の事象の数々。
特に青と緑の色使いは見事。

食器類など、無機質の冷たい素材でできているのに、
いったん彼らの手にかかるとほんわかと温かいオーラを放ちだすのだ。
とても単純なやわらかい丸み。
そしてどこともなくユーモラス。
思わず顔がほころんでくる。
これって・・・そう、ムーミンだ!
森と湖、雪と氷、そして広い海に育まれたすずやかな感性。

そういえばフィンランドはサンタクロースの国でもある。
この人たちは、大人になっても、
子供のこころを持っていられる
稀有な国民かもしれない。

ムーミンの国は夢の国

フィンランドはムーミンの国、
ムーミンに会いにいきましょう。

というわけで、9:30ヘルシンキ発の特急IC(インターシティ)に乗る。
11:00にトゥルクという、なだらかな坂の続く、
こぢんまりと落ち着いた町に到着。
ヘルシンキとはまるで雰囲気が違う。
日帰りであまり時間がないので、市内見物はやめ、
そそくさとムーミンの住む町、ナーンタリへ。

バスにゆられておよそ25分。
海に面した、ため息のでるほど美しい町だった。
お目当てのムーミン・ワールドとは、
この町の入り江に浮かぶ小さな島を、
そのまま実物大のムーミンの世界にしてしまったもの。
300メートルくらいの橋を渡って入っていく。
一種のテーマパークといえなくもないが、
一般的なテーマパークとの違いは、
乗り物などのアミューズメント施設が一切ないことである。
ムーミン谷のそこかしこでは、
ぬいぐるみを着たムーミン一家や
アニメさながらに扮装した他のキャラクターたちが、
来訪者を歓迎してくれる。

子供たちはムーミンが大好き。
ムーミンも子供たちが大好き。
大人も子供もみな柔らかな笑顔で輝いている。
そんな微笑ましい光景を飽かずに眺めていて、はっとする。
そうか、ここはフィンランドの人達の理想郷なのだ。
先祖代々、森に生き、森に暮らした人々のこころのふるさとなのだ。
彼らのこころは、いつも美しい森と湖とともにある。

ヘルシンキのような大都会では、さぞかし居心地が悪いことだろう。
素朴で無骨な彼らは、
コンクリートの巨大な塊を前に途方にくれているに相違ない。
彼らのそうした純朴なこころは、
私たち人間が決して失ってはならないものである。

ムーミン・ワールドからの帰り道、
とても穏やかで優しい気持ちになっている自分に気づいた。
ああ、来てよかった!

人情豊かで繊細な宝石細工のようなバルトの国々。
素朴な木のぬくもりを感じさせるフィンランド。
どれもすばらしかった。

世界には本当にいろいろな場所があって、
いろいろな人たちがいるんだなあ。
でもみんな違って、みんな同じ。
風景にも人にもいい出会いが沢山あった。
とても嬉しい。

                              

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